「あれ?」
グラウンドで整備をしていた岡崎は、
その姿を遠目に見つけて瞬いた。
いつもなら真っ先に、とは言わないが、
掃除があろうと教師に用を言いつけられようと
この時間までには必ずグラウンドにいる
彼がいないことは、少し気にはなっていたのだが。
「どうしたの、岡崎くん?」
「ほら、船橋」
隣にきた市村に指を差して示す。
しかしよくは見えないのか市村は目を凝らしながら
キョロキョロとしている。
「何やってんだろな」
まさかまだ校舎内にいるとは思わなかった。
向こうはこちらに気付いていないのだろう、会話をしているようで、岡崎は手でも振って早く来いと合図してやろうかと思ったのだが。
「――ん? 岡崎くん?」
繰り返される自分の名前に、岡崎はハッとして呼ばれていたことに気付く。
どことも知れないところを見てボーッとしてしまっていたらしい。
「集合、だって」
「あ、ああ、そっか」
「どうか……した?」
そう市村が聞くほどに、岡崎の様子はおかしくて。
だが岡崎は笑って首を振った。
「んじゃ行こうぜ!」
胸が音を立てていた。嫌に速く、鳴る。――自分自身を、そう感じた。
「おっせーぞ」
「うお、いつのまに船橋ー!?」
「さっきからいるっての」
呆れたように笑うのはさっきまで見ていた姿。
彼の態度に違和感なんて別段感じなくて、
ならば……と、岡崎はただ笑っていつも通りに言い返す。
「来るの遅かったのはお前の方だろっ! さっきまで校舎の方いなかったか〜?」
見えてたぞ、と何気なく言う岡崎に、それまで普通だった船橋の様子が僅かに変わった。
「でも間に合っただろ。ほら、早くしろ」
動揺――したように見えたのは、気のせいだろうか。
はっきりしたことは岡崎にはわからなかったが、……ずきりと胸が疼いていた。
CLAP*