『選手、入場です』
放送部のアナウンスに、
入場門からトラックの内側へと入ってくる集団へと
視線が集まる。
「おっ、来た来たっ」
「あれ、ナオ?」
男子の集まりの中にその姿を見付けて思わず
口からこぼれた名前に、岡崎は耳ざとく聞き取り
早苗の方に首を廻らせる。
「聞いてなかったんだ? 船橋も走るんだってさ」
「そうなんだ……」
「船橋くん、も足、速いから」
早苗は岡崎と市村の話を頷きながら聞いて、
配置についていく姿を見た。
もともと運動神経がいい方なのは知っていたし
部活でも走っているのを見ているから、
何かには出るのかなとは思っていたのだが。
「こういうのって固まる時は固まるんだよなぁ」
一人で笑いながら頷いている岡崎の声を聞きながら、
本当だなと思う。
偶然なのだろうが、友人が三人、
それぞれのクラスに別れてそこにいる。
「今日だけは船橋のこと応援すんなよ! あいつは敵だっ」
「頑張って、みんな……!」
「って、言ってるそばから市村ぁ」
「え? え? ごめ……っ」
みんな、と言う市村の応援の台詞は、
クラスメートという意味ではなく
友人たちだと理解して、岡崎は苦笑した。
「1Bファイトー!」
「ガンバー!!」
あちらこちらから応援の声が飛ぶ。
引っ張るのはどのクラスも学級委員か
ムードメーカー的な人物だろう。
負けずに岡崎も声を張り上げる。
「頑張れ……っ」
早苗と綾菜もぐっと手を握り応援する。
見守るうちにスタートの合図が鳴り、走り出して、
声援も加熱していく。
「行けー!笹木ー!!」
「コケろ宮本〜!」
「山本くーん!!」
「行け行けー!突っ走れー!!」
メンバーは応援に応えるように奮闘したものの、
一年の四クラスの中、BクラスはCクラスとの
トップ争いの末に僅差で負けてしまった。
隣に席を並べるCクラスからは熱い声が
沸き上がっている。
「惜しかったな〜」
「気を取り直してこれから頑張りましょう!」
「だな!」
走ったメンバーを労いクラスメートに声をかける高野に、
みんなはさらに闘志を燃やす。
もちろん全員が全員そういう訳ではなく、
暑苦しそうに傍観している者もいたが。
プログラムも中盤に差し掛かり、放送が流れた。
『只今より応援合戦を行います。生徒の皆さんは紅白に別れて下さい』
それを合図に、各クラスの体育委員による指示で全校生徒がイスから立ち上がった。
「千葉くん、頑張って、ね」
「バーカ、俺は違う組だろーが」
歩いていく途中に隣り合った市村の言葉に
千葉は呆れた顔をして笑う。
各学年A〜Dの四クラス、AとBが紅組、CとDが白組、とグラウンドで対峙するように二つに別れる。
それぞれから代表数名が前に立って紅白で向かい合い、互いに応援を披露するのだ。
千葉は自ら望んだ訳ではないのだが、
その応援団の一員に選ばれていた。
一年生では他にCクラスの今井などの数名がいるようだったが、早苗たちのクラスにはいなかった。
団長がそれぞれの組を率いるように前へと進み出る。
紅は恩田文也、白は香取礼一。
仕組まれた訳ではないのだろうが、
野球部とサッカー部の部長対決のようになっていた。
まだまだ着るには暑いと思うのに、
どこから持ち出してきたのやら学ランを着用している。
奏羽高校の制服は学ランではないから、
友人知人に借りたのだろうことは明らかだ。
紅、白、と順に声を張り上げ応援を披露する。
代表として前に立つ団員以外は数回の打ち合わせしかしなかった割りには、紅白どちらの動きも声も合って。
互いを威嚇でもするように熱が入る。
勢いで押す紅組団長と静かな威圧感を纏う白組団長。続くように団員。そして全校の生徒たち。
声が空に響きを残すようにして、応援合戦は終わりを迎えた――。
CLAP*