私が好きなのは、みんなでいる時間。
なのに――。
携帯電話から耳に馴染んだ曲が流れ出す。
早苗は寝惚け眼のまま携帯を手に取るとアラーム機能を止め、被っていたとも言えない程度に身体にかかったタオルケットを脇に避けて起き上がり、目を擦った。
ふと目を遣った真横の棚には卓上カレンダー。赤ペンでつけた印に目が止まる。
「あ……そっか」
一人頷くとベッドから下り伸びをして、今日はちょっと出掛けよう、と決めた。
船橋が立ち止まるから、岡崎は足を止めて彼を見上げた。
彼らはスポーツ用品などを多く取り扱う、
比較的彼らの家から近い場所にある
通い慣れた店にいた。
必要な物を買おうと二人で出掛けた先でのことだった。
「船橋?」
「ああ悪い、気のせい、か……」
何を見たのか、視線をそのままに船橋は答える。
だがしばらくじっと見て気が済んだのか、
岡崎の方へと目を向けて……視界をかすめた
姿に再び顔を戻した。
「早苗?」
後ろ姿がちらりと見えただけだったが、
船橋には彼女のように見えた。
だからつい、確かめるべく棚の間を抜けてその姿を追う。
「あ、ホントだ」
またも正面からでなく後ろからではあったものの、
はっきりその姿を視界に捉えた岡崎は頷いた。
彼女はレジの前でそうは並んでいない
列で順番を待っている。
「早苗」
「えっ……」
肩を叩くと振り返る。
人違いだなんてこれっぽっちも疑う余地はなく、
それはやはり早苗で。
「あ、ナオ、岡崎くん」
見上げてくる早苗は驚きに軽く目を見開いて。
「何やってんだ?」
「井上もなんか買い物?」
船橋は問い、岡崎はレジの店員に何かを手渡す彼女の手元を覗き込む。
「えーっと……」
困ったように微笑する早苗に、店員が袋に包んだ商品を手渡した。
邪魔にならないようその場から離れながら、ちらりと早苗が船橋を見た。
「……今いる?」
「え?」
「もうすぐ誕生日でしょ」
「あ、サンキュ」
何が入っているのかはまだわからないものの、小さな袋が船橋の手に渡る。
早苗はまだ黙っているつもりだったのに、などと呟いて苦笑した。
……岡崎が羨ましそうな目で見ていたことには、船橋だけが気付いていた。
最近早苗の様子がおかしかったことには
そばにいれば丸わかりだったから、
船橋も岡崎も心配していたのだが。
今日のこの様子に安堵し、彼らは店を出る。
街は休日ということもあってそれなりの人通りがある。
この辺りは様々な店が近いから尚のことだろう。
「二人は何してたの?」
「買い物以外何かあるか?」
「それはそうだけど」
「必要なのがあってさ。買ってからまたぶらぶら見てたんだ」
何気なく歩き、道を行く。
三人とも用を済ませたということで、ただ目的もなく並んで歩いてみるだけ。
休日に早苗と二人が顔を合わせるだなんて
あの夏祭り以来。
慣れた道さえなぜだか少し新鮮な気分になる。
そんな中、不意に何か考えるような仕草をしたかと思えば、岡崎の足が止まった。
CLAP*