「おーっ! 結構な眺め!」
草を踏み越え木々を少し抜けた先で、巡らされた古びた柵の手前から、岡崎は辺りを見回しながら夜景を見下ろした。
時間帯からして当然のことだが
もうどの建物も電気が点けられていて、
暗くなりはっきりとは見えない地上に
それがとても映えて輝いている。
その後ろ姿を見つけた早苗は、小さく声を掛けた。
「岡崎くん……」
「お、井上っ。こっち来てみ、電気が綺麗に見える」
「待って、歩きにくくて」
もとは公園のような広場だったのだろうか。
見たところ岡崎は難なく通過したのだろうが、
木は絡まり合って伸びているし、草も生え放題。
早苗には普段の状態でも動きづらそうな地面だ。
それが今は浴衣に下駄。しかも外灯の光は薄くしか届いていないようで、足をとられながら進む。
「きゃ……」
「井上!?」
岡崎はともかく早苗の姿が見えないことに、
船橋は眉をひそめた。
無事に連れ帰らないと渚に何を言われ何をされることか。
「俺ちょっとあいつら見てくる」
「ああ、暗いから気を付けろよ」
「おう」
楽しそうにきょろきょろしている市村と瀬尾を
見ながら保護者のようになっている千葉に告げて、
船橋は振り返って歩きだす。
「じっとしとけっての……」
地面の比較的整っているこちらから、放置されているような草木の茂る方へ。
死角になって見えないのはここくらいだからと見当を付けて。
外灯は数本が設置されているようだったが、そのほとんどが先ほど下を眺めていた場所を照らすためのもので、草地にあるそれは、不必要と思われているのか整備不足が見てわかる。
暗く歩きにくいことに不満を呟きながら足を進める。
「………何やってんだ?」
目的の人物を目の前に見つけだして、
だが船橋の動きは止まる。
好き勝手に成長しすぎた木の陰から覗かせた目が、
わずかに見開かれた。
仰向けに倒れた早苗。
覆い被さるような岡崎。
草に埋もれた地面に倒れこんだ二人の姿は、一見押し倒しでもしたかのようで。
「ふ、船橋……ッ」
声にはっとして顔を上げた岡崎が慌てて身体を起こして離れた。
機敏に起き上がったのが彼だけだったので、船橋は歩み寄って早苗に手を貸す。
「大丈夫か?」
「あ、りがと。よろけちゃって、びっくりした」
早苗は手を取って立ち上がり、少しぎこちなく笑う。
浴衣についた草や葉、土などの汚れが気になるのか、叩いて払った。
よろけた、だなんて。
見ればそんなことだろうと想像するのは難しくない。
早苗が鈍臭いことは船橋にしてみれば
よく知っているし、この暗さには
彼自身も身動きが取りづらかったくらいなのだから。
――だが焦る岡崎の様子が違和感を、
異変を感じさせる。
薄暗い外灯に照らされる中、
伺い見た姿からは、顔色まではわからなかったが。
CLAP*