scene25

「おーっ! 結構な眺め!」

 草を踏み越え木々を少し抜けた先で、巡らされた古びた柵の手前から、岡崎は辺りを見回しながら夜景を見下ろした。
 時間帯からして当然のことだが もうどの建物も電気が点けられていて、 暗くなりはっきりとは見えない地上に それがとても映えて輝いている。
 その後ろ姿を見つけた早苗は、小さく声を掛けた。

「岡崎くん……」
「お、井上っ。こっち来てみ、電気が綺麗に見える」
「待って、歩きにくくて」

 もとは公園のような広場だったのだろうか。 見たところ岡崎は難なく通過したのだろうが、 木は絡まり合って伸びているし、草も生え放題。 早苗には普段の状態でも動きづらそうな地面だ。 それが今は浴衣に下駄。しかも外灯の光は薄くしか届いていないようで、足をとられながら進む。

「きゃ……」
「井上!?」



 岡崎はともかく早苗の姿が見えないことに、 船橋は眉をひそめた。
 無事に連れ帰らないと渚に何を言われ何をされることか。

「俺ちょっとあいつら見てくる」
「ああ、暗いから気を付けろよ」
「おう」

 楽しそうにきょろきょろしている市村と瀬尾を 見ながら保護者のようになっている千葉に告げて、 船橋は振り返って歩きだす。

「じっとしとけっての……」

 地面の比較的整っているこちらから、放置されているような草木の茂る方へ。
 死角になって見えないのはここくらいだからと見当を付けて。

 外灯は数本が設置されているようだったが、そのほとんどが先ほど下を眺めていた場所を照らすためのもので、草地にあるそれは、不必要と思われているのか整備不足が見てわかる。
 暗く歩きにくいことに不満を呟きながら足を進める。

「………何やってんだ?」

 目的の人物を目の前に見つけだして、 だが船橋の動きは止まる。
 好き勝手に成長しすぎた木の陰から覗かせた目が、 わずかに見開かれた。

 仰向けに倒れた早苗。
 覆い被さるような岡崎。

 草に埋もれた地面に倒れこんだ二人の姿は、一見押し倒しでもしたかのようで。

「ふ、船橋……ッ」

 声にはっとして顔を上げた岡崎が慌てて身体を起こして離れた。
 機敏に起き上がったのが彼だけだったので、船橋は歩み寄って早苗に手を貸す。

「大丈夫か?」
「あ、りがと。よろけちゃって、びっくりした」

 早苗は手を取って立ち上がり、少しぎこちなく笑う。
 浴衣についた草や葉、土などの汚れが気になるのか、叩いて払った。

 よろけた、だなんて。
 見ればそんなことだろうと想像するのは難しくない。
 早苗が鈍臭いことは船橋にしてみれば よく知っているし、この暗さには 彼自身も身動きが取りづらかったくらいなのだから。

 ――だが焦る岡崎の様子が違和感を、 異変を感じさせる。
 薄暗い外灯に照らされる中、 伺い見た姿からは、顔色まではわからなかったが。






CLAP*