三人が戻ると、ちょうど闇の向こうから音が聞こえてきた。
岡崎が柵の手前で眺めている千葉たちのもとに走っていく。
「おおお! ……びみょー」
「なんて微妙な……」
夜空に弾けた花火は大きく輝いていた。
それはそれは綺麗に輝いていた。……のだが。
「木の枝で、隠れてる、ね」
「人がいない理由がわかったな」
「残念ー」
絶妙な位置に伸びている枝。
ほどよく視界を遮るものだから、
花火は円形としては見えずに大きく欠けて見えている。
それぞれにため息や苦笑を漏らしては、顔を見合わせて笑う。
みんな一緒になって、笑う。
笑う、のだが。
岡崎はちらりと視線を横に滑らせて、
すぐにまた花火に向け直す。誰にも気付かれないうちに。
花火を眺めていても、鮮明には目に映らず。笑っていても、いつものようには笑えていないような、気がしてならない。
頭の中は、蝕まれるようについさっきの事故のことに支配されている。
間近で嗅いだやわらかな匂い。
軽く乱れた髪。
少しだけ崩れた浴衣。
触れるほどの吐息。
わけもわからず、頭から離れない。
離れないから、どうすればいいのかわからなくて。
戸惑う。
「コケたのにメガネ無事でよかったな」
「ホント。メガネ高いもんねぇ」
隣に立つ船橋から掛けられた声に、早苗は笑いながら答えた。
下は草ばかりだったとはいえ、
倒れ方が悪ければ怪我をしただろうし、
周りには木ばかりなのだから、
下手をすれば打ち身や引っ掻き傷なんかも
出来ていただろう。
「浴衣も大して汚れなかったみたいだし、よかったぁ」
嬉しそうに花火を見つめる早苗は、向けられるいつもとは違う視線に気付くはずもなく。
――早苗の知らないところで何かが動き始めていた。
かちりと音をさせて、少しずつ、少しずつ、動いていく。
CLAP*