scene26

 三人が戻ると、ちょうど闇の向こうから音が聞こえてきた。
 岡崎が柵の手前で眺めている千葉たちのもとに走っていく。

「おおお! ……びみょー」
「なんて微妙な……」

 夜空に弾けた花火は大きく輝いていた。 それはそれは綺麗に輝いていた。……のだが。

「木の枝で、隠れてる、ね」
「人がいない理由がわかったな」
「残念ー」

 絶妙な位置に伸びている枝。 ほどよく視界を遮るものだから、 花火は円形としては見えずに大きく欠けて見えている。
 それぞれにため息や苦笑を漏らしては、顔を見合わせて笑う。

 みんな一緒になって、笑う。

 笑う、のだが。

 岡崎はちらりと視線を横に滑らせて、 すぐにまた花火に向け直す。誰にも気付かれないうちに。
 花火を眺めていても、鮮明には目に映らず。笑っていても、いつものようには笑えていないような、気がしてならない。
 頭の中は、蝕まれるようについさっきの事故のことに支配されている。

 間近で嗅いだやわらかな匂い。
 軽く乱れた髪。
 少しだけ崩れた浴衣。
 触れるほどの吐息。

 わけもわからず、頭から離れない。
 離れないから、どうすればいいのかわからなくて。
 戸惑う。

「コケたのにメガネ無事でよかったな」
「ホント。メガネ高いもんねぇ」

 隣に立つ船橋から掛けられた声に、早苗は笑いながら答えた。
 下は草ばかりだったとはいえ、 倒れ方が悪ければ怪我をしただろうし、 周りには木ばかりなのだから、 下手をすれば打ち身や引っ掻き傷なんかも 出来ていただろう。

「浴衣も大して汚れなかったみたいだし、よかったぁ」

 嬉しそうに花火を見つめる早苗は、向けられるいつもとは違う視線に気付くはずもなく。
 ――早苗の知らないところで何かが動き始めていた。
 かちりと音をさせて、少しずつ、少しずつ、動いていく。






CLAP*