「お待たせしましたっ」
自分の話をされていたなんて知るよしもない岡崎は、
嬉しそうに丸々としたたこ焼きを
次々口に運んでは頬張る。
そんな岡崎を連れて、彼らは再び歩き出した。
「喉詰まっても知らねーからな」
「だーいじょーぶだって」
「それよりも落とさないように気をつけてね」
「ソースなんて染み確実だな」
爪楊枝が素早いくらいに動くから、
たこ焼き自体やソースを落とすんじゃないかと
早苗はヒヤヒヤする。
だが歩きながらだというのに
岡崎は器用に完食してしまった。
それからも焼そばや焼きとうもろこし、
ソースせんべい、わたがしを見かけては、
全部に向かうことはなかったものの
岡崎一人だけふらふらとあっちへ行きこっちへ行きし、
幾つかを買っては食べていった。
他のメンバーはといえば、
早苗と瀬尾はかき氷を買ったくらいだろうか。
二人はそれらを、岡崎はりんご飴を手に歩いていると、
不意に山本が足を止めた。
「おっ、金魚すくい」
「おー、なーかなつかひー」
「飴食いながら喋んなよ」
「そうか? 祭りといったらこれだろ」
そう言ったかと思うと、
山本は金魚の泳ぐ水槽の向こうに座る男に
小銭を手渡し、しゃがみこんだ。
赤い縁取りのポイを片手に水面を睨む。
「すげーマジ顔」
「下手すると部活ん時より集中してるかもな」
「頑張って、山本くんっ」
「頑張って……ッ」
見守る中、山本の手が動く。
す、と滑る。流れるように。
小さく小さく水が跳ねて……
山本の左手に持つピンク色の器には、金魚。
次々とすくい上げられていく。
見事なその動作に、見守る視線も吸い付けられている。
「みんな……?」
不意の背後からの声に、
見ることに集中していた四人は一斉に振り向く。
と、驚いたようでその身体はびくりとして一歩下がった。
「あ、市村くんっ」
「市村、千葉?」
「よう」
「おーお前らも来たのかー!」
そこにいたのは市村と千葉の見慣れた二人。
沈みかける夕日に照らされ互いにオレンジに色付いて見える。
「あっ」
「はい、おしまいだよ」
交わされる会話に意識が集中からこちらに
引き戻されたのか、山本のポイの薄紙が破れたらしい。
店の人が終わりを告げ、小さな袋に金魚を流し入れる。
「どーも」
「わぁ、すごいね……!」
金魚を受け取る山本の手元を見て、早苗と瀬尾、市村が目を輝かせる。
早苗はそうだったのだが、
二人もこんな風に金魚をすくっている人は
見たことがなかったようだ。
「そういやお前ら、その袋何?」
岡崎が市村と千葉が手に提げたものを見て言う。
白い普通のビニール袋のようではあるが、
中からいろんなものが顔を出している。
――なんだか見覚えのある光景に似ている。
そう思ったのは早苗の気のせいなんかではなかった。
「向こうに射的があって」
「よし行こう!」
――やっぱり。
「言うと思った」
「あはは、岡崎くん射的好きなんだ?」
「じゃあ行くか」
なんだか燃えているらしい岡崎と
金魚を手にぶら下げた山本を前に、
市村と千葉も加わった一団で歩く。
CLAP*