――どうしてなんだろう。
早苗は思っていた。今ここに自分がいる理由がいまいちわからない。
賑やかな人通りのある場所なのでしないが、
首を捻りたい気持ちだ。
まだ日の明るい中、早苗たちに向かい
人影が歩道を勢いよく駆けてくる。
「船橋! 久しぶり、井上!」
「ん、久しぶり」
「はいはい落ち着け」
すぐ傍で足を止めた岡崎に早苗は笑い、
隣に立つ船橋は息を吐く。
「おーすげぇ浴衣だ!」
「そんな驚くようなことか?」
待ち合わせ時間にはまだ少し間がある。
早苗は渚の指示により迎えにきた船橋と
幾らか前にここへとやってきて、
そこに岡崎が現れたところだ。
予定としては、あと二人待ちになる。
結局、行くのか行かないのかはっきりしない早苗に渚が決定を下したのだ。
夏祭りには行け。一緒に行く人間も用意する。……そう言い放った、にっこり笑って。
渚が連絡をしたのは当然のように船橋で、船橋経由で人数が増えていった。
待ち合わせが様々な店の並ぶ歩道のど真ん中になったのは、
時折休日や放課後などに訪れる店がそこにあるからだ。
おそらく全員が揃ってわかるのはここではないかと、
決めたのは船橋と彼が誘った数名である。
「おーい!」
「お待たせ〜っ」
こちらへと手を振り歩いてくる二人組を見付け、岡崎が応えるように振り返す。
すると小走りで人の間を擦り抜け、山本と瀬尾が三人のもとまでやってきた。
「わ、井上さん可愛い〜!」
「瀬尾さんの方が可愛いよー……」
「二人とも似合ってるな」
「だな!」
早苗を見て明るい声を出してはしゃぐ瀬尾も浴衣を着ていた。
薄青に小ぶりの花柄の早苗と、紺に大きな花柄の瀬尾。
柄はどことなく似ているものの、受ける印象は色のせいか着ている人間によるものか、結構違う。
揃った五人は歩きだす。
出店が並ぶ道は狭い訳ではないが、
店に並ぶ客や行き来が多く、少々歩きづらい。
まだ時間が早いので混雑というほどではないのだろうが。
「今からこれじゃあ帰るまでにはすごい人だろうな」
「いっつも多いからしょうがねーって」
人波を眺めての山本の言葉に、出店に目移りしている岡崎が答える。さっそく何かを買い食いなり遊ぶなり、しようとしているらしい。
「祭りっていえばたこ焼きだよな! うまそ〜!」
「祭りじゃなくてもたこ焼きは食えるだろ」
「こういう時にこういうとこで食うから格別なんだって!」
「その気持ちはわかるかもっ」
足は止めないものの、岡崎の目はたこ焼き屋が見えるたびに、そっちへ吸い付けられている。
船橋のツッコミなんて持論の前には聞こえていないも同然。
同意をしてくれた瀬尾を見て、ますますたこ焼き熱とでも言えそうな気合いが増している様子。
「で、買うのか?」
「買う!」
「なら行ってこい」
「おうっ!」
バタバタと走っていく後ろ姿が笑みを誘う。なんだかほのぼのとする気持ちだ。
「あいつの祭りの目的は出店だな」
「オレたちもそんな感じかもしれないけどな」
「いいや、俺らとは違う。あいつはアレだけが目的だ」
船橋が言い切ると、岡崎が湯気の上がる
たこ焼きの乗った白い容器を手に駆け戻ってきた。
CLAP*