scene17

「いらっしゃいませー!」

 出迎えるのはエプロンを身につけた女子生徒。 教室の中には似た衣装の男女。
 いつもの机が並びを変えられ、 その上から白や薄い明るい色の布が被せられている。
 カフェへと姿を変えたDクラスの教室の中を軽く見回す二人に、 彼らのよく知る少女が近づいた。

「あ、市村くん、井上さんっ」
「瀬尾さん、あ、あの……」
「こちらへどうぞ」

 野球部マネージャーの瀬尾美紀が、にこやかに空いている席へと案内をする。

「ご注文はお決まりですか?」
「え、と……コーラ!」
「私はー……レモンティーで」
「かしこまりました」

 注文を受けて瀬尾がお辞儀をして下がっていく。

「可愛いなぁ、瀬尾さん」

 早苗の呟きに市橋が頷く。
 制服とは違う、フリルのついた落ち着いた色合いの衣装。
 スカート丈はそれぞれのようで、瀬尾のものは膝よりわずかに上で、裾がひらひらと揺れている。

「そういえば市村くん、笹木くんと一緒じゃなかったんだ」

 市村と笹木は、聞いた話では幼なじみみたいなものらしい。
 二人はクラスの出し物も同じグループになっていたから、 自由時間にも一緒に行動するものとばかり思っていたのに。
 市村は一人でいたから。

「あ、うん。なんか……今井くんに連れていかれてた」
「なんで……?」
「わ、わかんない」

 なんだかその光景は、 早苗にも簡単に想像出来る気がした。
 笹木は交友関係が広そうだから こういうイベント時はいろんなところから 誘いがかかるのかもしれない。
 人影が二人の座る机の傍に立つ。

「お待たせしました」

 見上げると楽しくなさそうな 千葉達也の顔がそこにあって。
 彼はただ機械的にグラスを二つ置いていく。

「千葉くん、似合ってる、よ」
「……嬉しくねー」

 市村の言葉に千葉は顔を背けた。
 ウェイター姿の彼は、友人である市村に 見られたのが恥ずかしいのか、 言われたことに照れているのか、 早苗の目にはわずかに頬に赤みが差したように見えた。

「うわぁ……」
「何?」
「な、なんでもないですっ」

 物珍しさに思わず声を漏らしてしまった早苗は、 視線を向けられて慌てて口を閉じた。
 市村はにこにこ笑って千葉を見てはしきりに 「わー」だとか「すごいなぁ」などと素直な感想を漏らす。

「なんでよりによってこの時間に来るんだよ」
「だって千葉くん、いるかな、って……」

 わざと時間を合わせたに決まっている。

 そんな市村の様子に微笑ましさを感じながら、 「いただきます」と早苗はグラスに手を伸ばす。
 このカフェでは冷たい飲み物だけを 置いてある訳ではないのに、 好みを考慮してか、 レモンティーとだけ言った早苗の注文にそれは ホットでなくアイスで届けられた。
 レモンの酸味と紅茶の甘さが、 適度な冷たさで優しく口に広がる。






CLAP*