――さて、どうしよう。
まだ他に友達と呼べるような、
自分から誘って一緒に回れるような人などいない。
早苗は廊下を見通してみた。
「……あれ?」
ふと、奥へと向かおうとしていた視線の動きが止まる。
少し行った先の廊下の間を、行ったり来たり、
うろうろうろ、歩くというかその場を回るというか、
何とも不思議な動きをしている者が目についた。
早苗は一クラス分の廊下を進み、歩み寄る。
「何……してるの……?」
その声に驚いたのか、目の前の肩がびくりと揺れる。
だから逆に早苗までその反応に驚いて一歩下がった。
「あ、い、井上さん……」
「入らないの……?」
中、と早苗は指で指し示す。
動きを止めた市村はあっちへこっちへ目を泳がせる。
「一緒に入る……?」
「えっ!?」
「あ、嫌だったら――」
「ううんっ! うんうん、入ろう! 入りたい!」
市村は必死に首を横に振って縦に振って。忙しい。
その様子に早苗から笑みが零れる。
彼が入ろうか入るまいか悩んでいたのは見るからにわかったから。
否、入ることは決めていながら踏み出せずにいたのが、まるで自分の行動のように理解出来たから。
「なんか緊張しちゃって」
「私も、なんかね」
顔を見合わせて、笑ってしまう。
早苗の場合は表情や行動があまり表に出ないから、
何かに迷っていても歩き回ったりはしないが。
それでも思ったまま、感じたまま、
身体が動いたなら彼のようだったかもしれない。
市村は感情も表情も豊かでなんだか
可愛いかもしれないなと感じてしまう。
ドアは開けっ放しになっていて、そこから人が出入りしていく。
1‐Dというプレートの下、飾り付けられたドアを二人はくぐった。
CLAP*