scene16

 ――さて、どうしよう。

 まだ他に友達と呼べるような、 自分から誘って一緒に回れるような人などいない。
 早苗は廊下を見通してみた。

「……あれ?」

 ふと、奥へと向かおうとしていた視線の動きが止まる。
 少し行った先の廊下の間を、行ったり来たり、 うろうろうろ、歩くというかその場を回るというか、 何とも不思議な動きをしている者が目についた。
 早苗は一クラス分の廊下を進み、歩み寄る。

「何……してるの……?」

 その声に驚いたのか、目の前の肩がびくりと揺れる。
 だから逆に早苗までその反応に驚いて一歩下がった。

「あ、い、井上さん……」
「入らないの……?」

 中、と早苗は指で指し示す。
 動きを止めた市村はあっちへこっちへ目を泳がせる。

「一緒に入る……?」
「えっ!?」
「あ、嫌だったら――」
「ううんっ! うんうん、入ろう! 入りたい!」

 市村は必死に首を横に振って縦に振って。忙しい。
 その様子に早苗から笑みが零れる。
 彼が入ろうか入るまいか悩んでいたのは見るからにわかったから。
 否、入ることは決めていながら踏み出せずにいたのが、まるで自分の行動のように理解出来たから。

「なんか緊張しちゃって」
「私も、なんかね」

 顔を見合わせて、笑ってしまう。
 早苗の場合は表情や行動があまり表に出ないから、 何かに迷っていても歩き回ったりはしないが。
 それでも思ったまま、感じたまま、 身体が動いたなら彼のようだったかもしれない。
 市村は感情も表情も豊かでなんだか 可愛いかもしれないなと感じてしまう。

 ドアは開けっ放しになっていて、そこから人が出入りしていく。
 1‐Dというプレートの下、飾り付けられたドアを二人はくぐった。






CLAP*