scene15

「おお、やっとるな!」
「何、小森がやってくれんの?」
「チーッス」
「うわ、来やがった……!?」

 ふらりと教室後方のドアから現れた バスケ部二年の二人連れに、 加納は軽く言葉を返し、小森は嫌そうに顔を歪める。 間抜けな姿はさらしたくないという表れか。
 がしりと先輩から肩に腕を回され、小森の顔はひくついた。

「なんや晶人〜?」
「あ、ああっ! 井上さん、もう交替の時間じゃね!?」
「えっ、あ……うん」
「てことだからざんねーん、諒先輩ッ!」

 必死に小森が抵抗していると、 時計は振り分けられた時間の境目を差し、 次の時間担当のグループが教室に入ってきたことにより 彼は危機を逃れた。

「それじゃあ」

 と、役目から解放された二つのグループが バラバラと廊下から散らばっていく。
 早苗もわずかな手荷物だけを持ち 綾菜と一緒に教室を出る。

 廊下はざわざわと行き来をする人で騒がしい。
 一年はBクラスとDクラスが教室を使っている くらいのものなので、 全クラスが教室を使っているよりは 廊下も混雑はマシなのかもしれないが。

「綾菜〜!」

 早苗たちに向かい、 はしゃいだ高い声とともに少女が弾むように走ってくる。 クセのある茶色っけのある髪が、 動きに合わせて軽やかに跳ねる。

「果歩ちゃんっ」
「ねねね、恭介くんは!?」
「もう行っちゃった、ね」

 綾菜の言葉に果歩ががっくりと肩を落とす。
 何度か早苗も話したことのある彼女は綾菜の中学からの親友らしく、ハキハキとした可愛い子で、自他ともに認める加納のファン、ということだった。

「あ、早苗ちゃん、私果歩ちゃんと回る約束してるんだけど……早苗ちゃんも一緒に行かない?」
「あの……ごめんね、私行くとこあるから」

 本当は、行くところなんてない。
 折角誘ってくれたのに、とは思いながらも、 綾菜とだけならともかく まだよくは知らない果歩と上手く話せる自信が なかったから……だから、早苗は断った。
 綾菜と果歩が手を振って歩いていくのを一人、見送った。






CLAP*