scene12

 クラスの出し物はすでに六月のうちから決まっていて、準備も進められていた。
 他クラスが何をするかはそれぞれ口外していなかったが、 この時期まで来るとさすがに情報が行き交い 何とはなしにわかってくる。

「オレ細かいの苦手なんだよなー」
「貸してみて」

 当日のための景品作りにてこずる岡崎に、 学級委員の高野亜弓が手を差し出す。
 苦戦していた部分を教えながら 代わりに手早く済ませた彼女は、 机も椅子も片隅に片付けられた教室の中を回って クラスメートたちに手を貸していく。

「早苗ちゃん器用だね〜」
「綾菜ちゃんこそもうそんなに出来たの?」
「こういうの好きだから」

 床に並んで座り一緒に作業をしていた 早苗と綾菜は笑いあう。
 タイプやテンポが似ていることから 自然と仲良くなった二人だったが、 こういった趣味嗜好、特技といった点でも似ていることが判明した。

 開け放されていた教室の前方のドアから、 不意にひょこりと顔が覗く。 色素の少し薄い茶色い髪の少年。

「Bクラスのみなさーん、順調に進んでらっしゃいますか〜?」

 犬のような人懐こい笑顔を振りまくのは、 早苗でも知っている隣のクラスの人気者、今井京平。 小柄だが、だからこそムードメーカーでマスコット的存在らしい。
 様々な部活を回っているのか、 放課後のグラウンドでも何度か見掛けている。

 六月の中頃に廊下や壁越しの教室から聞こえていた 「絵描きはいねぇか〜歌い手はいねぇが〜」 などというなまはげを真似た声は彼のもの。 きっと学年の人間誰もが一度は耳にしただろうと 思われるほどに賑やかな声であった。

「もち順調ー!」
「京ちゃん、自分のクラス放っといていいの?」
「いーのいーのっ」

 教室のあちらこちらから声が飛び、今井は自分のクラスのように歩き回る。
 ノリが合うのか岡崎と軽口を交し合っては笑い声が上がる。
 ……と、いきなり彼の動きが止まった。

「捕獲」

 がしりと首根っ子を掴まれた今井は不機嫌そうに現れたその人物を睨み上げる。

「放せよー!」
「誰が放すか、このバカ」

 それは今井の親友……という立場なのだろうが 明らかに飼い主として周囲に認識されている 木ノ下健太だった。手足をバタつかせて暴れる今井に 構うことなく苦笑を浮かべる。

「お騒がせしましたっ」

 今井を掴んだまま教室内に軽く頭を下げると、 彼はそのまま問答無用と今井を引き摺っていく。

「いーやーだ! 帰らないーチキンのバーカァァァ」

 互いに悪態を繰り出しながら二人は教室から出ていく。
 叫びはいつまでも響き、クラスの何人かは笑い、 何人かは呆気にとられるばかりだ。

「いやぁ、賑やかなやつだなー」
「お前も負けてないと思うぞ」

 さっきまで自分が最も今井の相手をしていたクセに 岡崎が笑ってそんなことを言うから、 その肩に手をやった山本が同類にしか見えないぞと告げた。
 そうこうしている間にチャイムが鳴り響き、授業時間の終了を知らせる。
 掃除のある者は担当の掃除場所へ、部活がある者は部活へ、向かう。

「あ、いってらっしゃい」
「おう! そっちも頑張ってな」

 細々としたことから解放されるのが嬉しいのか、 岡崎が笑みを見せる。

「悪いな」
「また、明日」
「部活頑張ってね」

 文化系の部活はもちろん今のこの教室と同様の理由から 忙しいようで何人もそそくさと去っていき、 運動系は一定期間休みという部活もあるようだったが、 野球部の面々は張り切って出ていった。

 帰宅部である早苗は黙々と作業を続け、 意外な手先の器用さをを見せる笹木と競うようにして 景品を作り上げていったのであった。






CLAP*