早苗の中で答えは出ないままに放課後がやってきた。
連れ立って教室を出ていく男子生徒が意識せずとも視界に映る。
毎日何とはなしに見ているから、
しっかり確認しなくてもそれらが誰だかわかる。
部活に向かうグループはいくつもあるが、
特に彼らはやけに楽しそうに出ていくから、
いつだって目についた。
「行こう……っ」
控えめな、だが楽しそうな声。
それに答える明るくて大きな声。
岡崎と山本、同じく彼らの部活仲間である
市村弘史の三人だった。
市村は少しおとなしくて気が小さそうな男子。
岡崎や山本とはまったく違う性格をしているのが
端目にもわかるから、
よく仲良く行動をともに出来ているなと
こっそりと思っていた。
それとともに、早苗は彼にどこか親近感を抱いていたりもした。
不意に、ドアの手前で岡崎が思い出したように振り返る。
「井上っ」
大きく呼ぶ声に、部活に向かう用意をしていた早苗の友人、牧野綾菜が目を丸く見開いた驚き顔で振り向いた。
そういえば誘われた休み時間に彼女はいなかった。
「岡崎、早く行こうぜ」
「おう。またあとでなー!」
山本に促され、跳ねるように岡崎は出ていった。
明るい笑顔で“またあとで”なんて手を振られて。
早苗は行かないという選択肢は捨てて、行くだけ行ってみることにした。
まだ夏ではないとはいえ、暑さの増していく気候。
グラウンドに近づいた早苗は空を仰いだ。――適度に雲の浮かぶ青い空が綺麗だ。
フェンスががしゃんと鳴り、網の向こうから岡崎が顔を覗かせる。
「井上、ここらで見ててくれな」
「あ、うん」
駆けていく彼を目で追っていくと、そこにはすでに着替えを済まして集まってきている野球部員たちがちらほらといた。
ここは野球部専用のグラウンドの一角だったので、他の部の人間は見えない。
その中には船橋の姿もあり、張り巡らされたフェンスを挟んだ場所から見ている早苗に気付いて、驚いた眼差しを向けている。
岡崎が笑いながら肩を叩いては走っていく、それを船橋は追い掛けて走る。
その光景は、見ていて楽しいものだった。
段々とグラウンドには人が増え、顧問と監督らしい人物が現われる。
途端緊張感が生まれ、普段何事にも鈍いと言われる早苗にも空気が変わったように感じられた。
スポーツのほとんどに興味のなかった早苗は、当然のように野球にも興味はなく、ルールや様々なことを知らなかった。
それでも激しく動いて練習をしている彼らの様子を見ているのは、意外と飽きないものだった。
大きな声が響く。
誰もが走り回る。
白球が飛んで、高い音が空まで届きそうに響いて。
ただただ何をするでも考えるでもなくぼんやり眺めていて、そうして気付けば辺りは徐々に薄暗くなっていた。
CLAP*