第十二話 剣戟

-ジョーカーとユリシス-

 剣戟の音が響き渡る。

 それは奥まった部屋に消えた屋敷の主のもとまでは聞こえていなかったが、捕らえられ人知れず軟禁されていたレミの耳には届いていた。

 耳慣れないはずの争い合う音。だが知っている気もして。
 レミは顔を上げ、耳を澄ませた。





 金髪のジョーカー――フィオルの一対一の対決は、存外あっさりと決着がついた。

 相手がそれほどの使い手でなかったこともあるが、魔導騎士副団長であるフィオルを敵にした、相手の不運さもあったようだ。魔導の力を使わずとも呆気ない。

 そうして男を床に沈めておいて、彼は相棒たる黒髪のジョーカー――ケインと男たちを振り向く。
 その緑の瞳が僅かに揺れ、しかしそれも束の間、彼はケインに駆け寄った。

「悪いな相棒。すっかり忘れていた」
「そりゃ相変わらず酷いな相棒」

 二人は取り囲む男たちを前に互いに背を預けあい改めて剣を構える。 対する男は、一人は早くも疲弊していて、一人は軽くだけ息を上げ、だが一人は涼しい顔をしている。

 ケインとフィオルは声も目も合わせず、それぞれに相手を定めて跳躍。ほぼ同時に二人の男が倒れ伏す。

 先ほどまで三人と対峙していたケインは三人に割いていた警戒をフィオルと分けたことにより動きが格段によくなり、フィオルも先の相手を比較的楽に倒したことで力はまだまだ温存出来ているといった状態だったからだ。

「残るは一人」
「――――だな」

 四人いた中で一人残ったのは、もちろん涼しい顔をしていた男だ。 長身の、彼らと年の変わらないと見える姿。
 肩口で切り揃えられた髪は白く、鋭利な光を宿す瞳は血の赤。アルビノと呼ばれる色素の欠落した、だが美しい姿。

 彼が強いことは明らかだ。三人で敵対していたとはいえケインを相手に息一つ乱さず、汗一つかかず、顔色も変えない。
 今度はジョーカー二人に対し男が一人と人数は入れ替わったが、形勢逆転と喜ぶことは出来ない。
 男はその身体に釣り合う大剣を軽々と振り上げ、ケインにフィオルに斬りかかる。

「はあッ!!」
「――――ッ」

 後ろに跳んで男との距離をとろうとする二人だが、 どちらかといえば疲れの度合いの高いであろうケインに狙いを定めたようで、 まずは一人潰そうとでもいうのか間合いを詰め踏み込んでくる。
 フィオルは魔導の力で援護しようとするが、開いた口から出たのは呪文ではなかった。

「――神の末裔が人攫いの片棒を担いでいるなんてな」

 他人が聞けば突拍子もない意味のわからないものだっただろう。
 だが男は眉をひそめ、ケインから離れフィオルに向き直った。

「なぜ、それを」
「お前こそ、なぜこんなことを……!」

 普通に考えれば盗賊のように忍び込んでいるフィオルたちの方こそが犯罪者であるのに、それでも男は思うところがあるのか大剣を振り続けながらも微かに眉間に寄った皺が増えた。

 本来なら口にするべきではないとわかっていても、こうでもしなければ自分たちは二人がかりでも危ういかもしれないと知っている。それは正体を明かすことと同義だと知りつつ、フィオルは続けた。

「ユーイ」

 赤い赤い目が見開かれる。
 大剣は剣によって進路を遮られ、彼らの間でその身をぶれさせた。