-ケインとフィオルティン-
彼女に魔導の力が顕れるのは、不思議なことではなかった。
兄のフィオルは幼い頃からその力を顕していたし、彼は今では魔導騎士である。
両親はそうでなかったらしいが、父方の一族は騎士の家系であるとともに魔導の血を持つ家系だった。それはケインも知っていたし、その力やその力を持つ者への偏見も持ってはいなかった。
ただ、レミが魔導使いだなんて話はこれまで聞いたことがない。
未だ未知数の力であるため、身体に差し障りがある可能性も皆無ではないというから、レミが今までにそれを使うことがなかったことは理解出来るのだが。
教えてくれてもいいものをと、そう彼女に対しても親友に対しても思う気持ちは止められなかった。
「だから、使わない力ならないも同然だろう? なんで知ったか知らないけど、本当機嫌悪いなぁ、お前」
呆れたようにため息を吐くフィオルに、当たり前だろうとケインは思う。
レミをイレイク家の屋敷に送り届け、一度帰宅して仮眠をとり、仕事場で顔を合わせてのことだった。
仕事場といっても今日は城へ上がって近況の報告や情報の交換が主で、それらは滞りなく進みつい先ほど解放されたところ。
「さてはお前、レミのことなら何でも知っていたいなんて……!」
「それはお前だ一緒にするな」
「冗談だよ」
帰る道すがら、馬上での遣り取りはいつもと変わらない。
今日はよく晴れていて、気候も穏やかで。そこここに小さく野花に少女の微笑みを重ねる。
ケインもフィオルほどの溺愛ではないにしろ、レミが可愛い。生まれた時から見てきた、妹も同然だ。
それだけに、こんな隠すようでもないことを秘密にされていたことが悔しい。
屋敷を抜け出す彼女に気づかず二度も暗い中を出歩かせたフィオルにも腹が立っている。
そのおかげで助かったこととそれとは話が別なのだ。
不意に、微笑みを翳らせフィオルは目を伏せた。
ケインもまた彼を見てはいなかったから、視線が絡むことはなく。
「――お前だって隠し事をしているじゃないか」
囁くようなその声は、そよぐ風にさえ攫われながら、微かに、ごく微かに、ケインの耳に届いた。
何とはなしに辺りを眺めていたケインはフィオルに視線を戻すが、そこにはいつもの穏やかな表情を浮かべる親友がいるばかり。
「フィオル?」
「うん?」
「今、なんて……?」
分からないはずはないのに、フィオルは軽く肩を竦めて答えない。
ケインもはっきりとは聞き取れなかったから、そして触れられたく、触れたくないことを思い浮かべたから。
それ以上追求することが出来ずに。
風がただやわらかに吹く。日差しがあたたかに包み込む。
互いに無言となったために下りた沈黙が、いつもなら落ち着いた空気を生むのに今ばかりは二人の間に距離を生む。
フィオルはジョーカーの正体を知らないはずだった。
秘密ということでレミが言ったとは思えないし、魔導の力があっても万能ではなく心を読むような力はないはずで。
それでも彼は知っているような、そうとしか思えないような、そんな色を緑の瞳に見た。