scene19

 Aクラスは教室ではなく校庭で店を出していた。
 他学年の店も点々と並ぶので、人波もばらつきを見せながらそれなりの多さがあった。
 早苗と歩いていた市村がいきなり手を振りだす。

「ふ、船橋くん、山本くん……っ」

 見ると出店のその近くで船橋、山本の二人が手を軽く振っていた。
 客であるはずの山本はもちろん制服そのままだが、 自分のクラスの出し物である店のそばに立つ 船橋はTシャツに制服のズボンという格好である。

「よっ、いらっしゃいませ?」
「いらっしゃってみました」
「お前らも来たかぁ」
「うん。さっきは井上さんと、カフェ行ってきたよ」

 歩み寄り、言葉を交わし、市村の笑顔に山本と船橋も笑みを浮かべて応える。

「ねぇ、そういえばナオは何するの?」
「俺? 呼び込み」
「なんだ、作らないんだ」

 船橋が調理するなら、わざわざそれを買ってみようかと思っていたのに。
 そんな早苗の内心がわかったのか、山本が吹き出す。

「デザート系の店で船橋が作ってる姿なんて想像出来ねぇな」
「また言うか。どうせ俺は焼そばでも焼いてんのが似合ってんだろ」

 早苗たちと会う前にもされていた会話のようで、聞き飽きたと言いたげに船橋はため息を吐いた。
 彼のクラスの店はクレープや少し変わった かき氷なんかを売っているようで、 言われてみれば確かに坊主頭の野球部員じゃあ 何だかおかしな光景に思えるかもしれない。

「だから呼び込みなんだ」
「納得すんな」

 ぺしり。船橋が早苗の頭を軽く叩く。 笑って見上げると、そこにはむすりとした顔。 見ている前でそれが崩れ、互いに笑う。

「仲のよろしいことで」

 不意に背後から声が聞こえ 早苗はパッと振り向いた。

「岡崎くん?」

 振り向いて目が丸くなる。
 いつの間にどこからやってきたのか、 岡崎は何故か何かを大量に抱えている。

「あーげるっ」
「へ!?」
「的当て、もう来んなって言われちまった〜」
「そりゃ巻き上げすぎだろ」
「だな」

 岡崎は笑って話すが、船橋は呆れて苦笑するしかない。
 上級生がやっているボールの的当てに参加し、 片っ端から景品を貰ってきたらしい。……来るなと言われても当然だ。

「そんでみんなは何やってんだ?」
「俺は係回ってくるまで暇潰し」
「そんな船橋の話相手」
「お、オレはさっき来たとこっ」
「別に大したことはしてないって言うか……」

 一人一人と順番に答える四人に、 岡崎は軽く頷いて腕時計を見た。
 早苗たちがここに来てからそう時間は 経っていないから、まだまだ終了時間となる夕方は遠い。

「よーし! じゃあ今から全部回ろうぜ!」

 こぶしを握って力強く言う岡崎に、 何人もから疑問符が付いた声が発せられる。 突然何を言いだすのだと、彼へと向けられた目が言っている。

「暇なやつはついてこいっ!」

 友人たちの反応などお構いなしに岡崎は歩きだした。
 岡崎を先頭にまだ役目のある船橋以外の彼らは、 二年、三年、文化系の部活の出し物、展示などを見て回った。
 二日目は体育館の舞台で演劇や歌などもあったが、 一日目と大きな違いはなく過ぎ去り――。

 奏羽高等学校に入学して初めての学園祭は、何事もなく終わりを迎えた。






CLAP*