05 - いつも変わらない海
「さっすがルカ」
あとをロザリーとアーヴェルに任せ
アイシャの部屋を出ての言葉に、
何がとルカはリークを見上げる。
彼は一人頷きを繰り返しながらルカに
続いて歩いている。
「言わなくていいっつったら言いたくなるわな、
人間として」
「そんなつもりで言ったんじゃない」
「わーかってるよ。ルカはまっすぐだ。
お前の言うことは言葉通りの意味ばっかだよ」
笑うリークの手を自分の肩から振り払ったルカは
自室の前で足を止め、軽く肩越しに振り返った。
「船のことは任せる、リーク。港に近くなったら、」
「ボートを用意。――了解してますよ」
「頼む」
視線を正面に戻したルカはドアを開け
部屋に入っていった。リークはそれを見遣る。
――ルカはまっすぐだ。
純真でさえあると思う。
こんな荒くれ者たちの中にいて凛と咲く。
女という身でありながら傷つくことをいとわず、
己など気に留めず、突き進む。
彼女は自分を汚れていると思っているかもしれない。
だがそれは間違いだ。
海のように空のように澄んでいる、穢れなど感じない。
「お前はまっすぐだな、ルカ」
だからこそ危うい。だからこそ……彼がそばにいる。
彼らみんなの親と呼べるガイリオス=キルスに
二人で一人前となるようにと、
リークはルカにつけられた。
兄のように慕うルカを――
「守ってやれるのは、今だけかもしんねーよ?」
小さく呟いた声は、ルカには届かない。
部屋に入ったルカは衣類をごそりと取り出した。
陸に上がるために着替えるのだ。
今の格好でも悪いわけではないのだが、
その国に合わせたものを着なければやはり
どうしても浮いてしまう。だからそう多くはない
数の中からそれらしいものを探り出す。
動きやすいようにとのことを考えると自然と
少年のような服装になっていた。
もとより女の子らしいものなど持ち合わせては
いないのだが。
鏡を軽くだけ見て一応の形をチェックすると、
手頃な大きさの布袋に簡単にものを突っ込み、
準備を終えた。
窓から見る海はいつもと変わらない。
ただそこにあり、自分もまたここにいる。
いつまでだって変わらずこの場所を――守りたいと
ルカは思う。
ボートを一艘すぐ出せるよう手を動かすリークに、
手伝いをしていた者から声がかかる。
「ねー、リークさん? どう思います?」
「何が?」
聞き返しながらも、本当はわかっている。
彼が何を言いたいのか、
それはアイシャという少女のこと、彼女の話なのだと。
ルカと別れたリークは船員たちに説明をして回った。これはルカの意思。
この船では隠し事は好まれない。
狭い空間であるがためいずれバレるから
というのもあるが、何より船員は仲間、
家族であるという考えからのことだった。
「いや……信じちゃっていーんすかね?」
自分で名乗ったものが正しいかなどわからない
少女を信じられないのは仕方のないこと。
だがルカがそうと決めたなら、
ひとまず信じてみるしかない。
「それを確かめるためにルカが行ってくんだろ。
俺たちは船長に従ってりゃいいんだよ」
そう言ってリークはこの船に乗り込んで間もない
フランの髪をくしゃりと撫でて笑った。