-フィオルティンとケイン-
フィオル、レミ兄妹とケインの付き合いは長い。ほとんど生まれてからずっと、と言ってもいいくらいに。
もちろん生まれた年月は違っているが、特に年のひとつ、ふたつしか違わないフィオルとケインは半ば兄弟のようにして育った。
レミが生まれた時フィオルの傍にいたのはケインだったし、父が母が亡くなったときにいたのもケイン、初めてフィオルに魔導の力が表れた時にそこにいたのも、ケインだった。
魔導の力とは、一部の人間が生まれながらに持つ不思議な力のことで、過去には"禁忌の力"とも呼ばれ、忌まわしいものと恐れられてもいたらしい。
今ではこのコールダリィという国の中だけでいうと、国家公認の能力として現在では"魔導騎士"、"魔導士"という機関、組織まで設けられている。
今でも、大半の人間に比べればその力を有する者は多いとはいえない。
だがイレイク家にはフィオルとレミの曾祖母の血が混じったことにより、魔導の力を有して生まれる者がたびたび現れるようになったらしい。どうやらこの力は遺伝するのかもしれないと、研究者は言う。
「俺のいない間、様子見に来てくれてたって?」
「ああ。いつもべったりな兄貴がいないとなると、多少寂しいかと思って」
「それはそれは、アリガトウゴザイマス」
「……トゲのある礼をドーモ」
彼らはフィオルとレミの祖父、ケインの祖母が兄妹であるという血の繋がりと、互いの曽祖父母が親しかったために、親類の中でもより親しくしていた。
フィオルが魔導騎士になれば、ケインも騎士に、なって。親友であり、好敵手である。
「兄様たちはいつも本当に仲がよろしいのね」
二人がテーブルを挟んで笑いあう横で、おとなしく紅茶を飲んでいたレミが口を開いた。
フィオルはカップを受け皿に戻し、テーブルの上で両の手のひらを組んで微笑みかける。
「何を言ってるんだ、仲がいいのは兄様とレミだろう?」
「…………いい加減に妹離れしろよ、バカ兄貴」
うんざりした視線と声をケインに向けられても彼は気にする様子もない。
もういつものことすぎて、ケインもこの友が変わるはずもないということをとてもよく知っているのだが。
それでも言いたくなるほどには、フィオルは愛妹にべったりだ。
愛されている当の本人は、ゆっくりとカップを口元に運んでいる。その様子をにこにこ見守るフィオルは、そろそろ本気でどうにかしなければいけないのではと、ケインに思わせるのだが。
「そういえば今日は何の用なんだ?」
「ああ、……別に大した用事はないけど」
「遊びに来ただけか。ま、いいけど」
紅茶を飲み干したフィオルはおもむろに立ち上がり、ティーポットからカップへ、おかわりを注ぎ込む。
この屋敷には今あまり侍女や侍従がいないから、ほとんどのことを自分たちでするのだ。
侯爵家とは名ばかり、という訳ではない。何代か前からの方針なのだ。
この紅茶も、淹れたのはレミだった。ケインもまた、こういうことがなかなか上手かったりする。
「そうだ、夕食は食べて行くんだろう?」
今の今まで邪魔者扱いしてきていた彼がそういうから、ケインは笑った。
なんだかんだ言っても、フィオルは愛しのレミエルの次には好いてくれているのだから。
ケインは笑みにゆるんだ口を開く。
「二人がいいと言うなら」